ジュリ&マリ ブログ小説「ジュエリー作家 伊織理人の工房」第一話(3):「時を戻す指輪」(全5回)
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- 2月6日
- 読了時間: 3分
更新日:2月7日

リヒトは新品のように蘇った指輪を眺めながら、考え込んでいた。
「刻印を削る…そんなことをする理由は、普通なら考えられない」
長年の愛の証として身に着ける結婚指輪。それをわざわざ傷つける理由とは、何なのか。
老婦人のご主人が、何か伝えたかったのかもしれない。
あるいは、 消してしまいたい理由があったーー。
「……直接聞くしかないか」
リヒトはそう決めると、老婦人に電話をかけた。
再訪——思い出の指輪とともに
数日後、工房を訪れた老婦人は、仕上がった指輪を手に取ると、驚きの表情を浮かべた。
「まぁ……本当に新品のようね」
老婦人はそっと指輪を撫で、じっと見つめる。
「おじいさんと出会ったころの気持ちを、また思い出しそうだわ」
彼女の表情は穏やかで、ピカピカに光る指輪を宙に浮かべながら眺め、どこか懐かしさに満ちた表情を浮かべていた。
しかし、リヒトはその指輪に刻まれた文字をどう切り出すか迷っていた。
リヒトは意を決して訊ねる事にした。
「……あの、指輪の内側の文字なんですが」
「え?文字?」
老婦人は不思議そうにリヒトを見た。
「ええ。かつて刻まれていた文字が、ヤスリのような物で削られた跡がありました」
リヒトは仕上げる前の、削り取られた指輪の写真を見せながら、話を続ける。
「かつてここに、『I Will make you happy』と刻まれていたようですが…」
その瞬間、笑顔だった老婦人の顔が硬直した。
「……あの人が?」
かすかに震える声だった。
「やっぱり…彼が削ったのね」
リヒトは彼女の言葉に驚き、思わず前のめりになる。
「ご存知だったんですか?」
「ええ… でも、理由はわからなかったの」
「私、置いておいたはずの指輪をうっかり無くしてしまったの。 暫くしてからおじいさんが見つけてくれて・・・」
老婦人は、指輪を握りしめながら遠い目をした。
「その時、何か違和感があったの
次の日虫眼鏡で見たら内側が削れてて・・
私てっきり無くした時に傷ついて
しまったんだわって、後悔していたの・・・」
彼女は視線を落とした。
「おじいさんは最期の頃、何かを悔やんでいる
ようだった。でも、それが何なのか、
私には聞けなかったの・・・」
彼女も、気づいていたのだ。
夫が何かを抱えていたことを。
だが、それが何なのか、今も分からないまま。
リヒトはふと、指輪に触れたときに流れ込んできた映像を思い出す。
「僕が君を幸せにする」——と誓ったのに、それを削った理由。
彼は何を悔いていたのか?
「……もしかすると、ご主人は何かを伝えたかったのかもしれません」
リヒトがそう言うと、老婦人は小さく微笑んだ。
「ええ、そうね。でも、あの人はもういないわ」
「だからこそ、職人さん。あなたが代わりに、この指輪が何を語ろうとしているのか、教えてくれない?」
彼女は悪戯好きだったいつかの少女の様な笑顔で笑った。
リヒトはもう一度指輪を見た。
これはただの新品仕上げではなかった
指輪に刻まれた秘密は、削り取ったご主人の記憶を解き明かすための依頼なのかも知れない。
次回「第一話④:永遠の約束と未完の言葉」
指輪が語る、50年前の誓いと、老婦人が知らなかった「もう一つの真実」。
次回の更新をお楽しみに!
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