J&M

第三話④：「彼女の最後の願い」 オルゴールの内蓋の中に、大切に包まれていたエメラルド。 彼はそっと、それを手のひらに乗せた。 小さな緑の宝石。 光にかざすと、淡く輝きながら、彼の指先で静かに転がった。 「どうして……？」 なぜ、妻はこれをここに隠したのか。...

伊織理人の工房　消えたエメラルド③ 「奥様が最後に触れたもの、大切にしていたもの……そこに、エメラルドがあるかもしれません。」 リヒトの言葉を胸に、男性は帰路についた。 自宅に戻ると、仏壇の前に座り、改めて妻の遺品を見つめた。 思い出の品は、数えるほどしかない。...

第三話②：「蘇る記憶」 「……エメラルドは、妻のものだった。」 男性は指輪を手にしながら、ゆっくりと語った。 「2年前、妻は事故で亡くなりました。それからずっと、この指輪を仏壇に置いていたんです。でも……2週間ほど前、気づいたらエメラルドだけがなくなっていました。」...

第一話①：訪れた男と、消えた石 M市にひっそりと佇むジュエリー工房「J＆M」。 手作りの指輪や、オーダーメイドジュエリーを制作するこの店に、ある日、一人の初老の男性が訪れた。 店内のカウンターの奥で作業をしていた伊織理人（いおり りひと）は、静かに顔を上げる。...

ジュエリー作家　伊織理人の工房　⑤ M市の小さなジュエリー工房「J＆M」に、再び彼女が訪れたのは、指輪を受け取ってから数日後のことだった。 リヒトが作業をしていると、控えめに扉が開く音がした。 「あの…こんにちは」 「ああ、いらっしゃい」...

M市の小さなジュエリー工房「J＆M」。 伊織理人（いおり りひと）は、指先に残るルビーの温もりを感じながら、静かに作業台に向かっていた。 「この石に込められた"約束"を、今の彼女に相応しい形にする。」 それが、リヒトに託された仕事だった。...

M市の小さなジュエリー工房「J＆M」。 その夜、伊織理人（いおり りひと）は、赤いルビーを手にしながら、スケッチを仕上げていた。 「…やっぱり、シンプルでクラシックなデザインが合うな」 彼の指先が紙の上を滑る。 細めのゴールドのリングに、ルビーが柔らかく包まれるデザイン。...

M市にある小さなジュエリー工房 「J＆M」。 伊織理人（いおり りひと）は、今日も静かに作業台に向かい、ジュエリーと向き合っていた。 扉につけられた小さなベルが鳴る。 工房の入り口に立っていたのは、少し控えめな雰囲気の女性だった。...

ジュエリー作家　伊織理人の工房　第一話（5） 老婦人が指輪を薬指にはめ、静かに微笑みながら店を後にした。 「職人さん、ありがとう、大切にするわ」 そう言い残して、扉が閉まる音が響く。 理人はしばらくその場に立ち尽くした。 指輪は完璧に仕上げたはずだった。...

ジュエリー作家　伊織理人の工房　第一話（4） 指輪を受け取った老婦人は、そっと目を細めた。新品のように輝くリングを指にはめ、それを上にかざしながらゴールドのキラキラした輝きがとても愛おしいのだろう。 「懐かしいわね…この輝き」 遠い目をしながら、老婦人は再び小さく笑った。...

ジュエリー作家　伊織理人の工房　第一話（３） リヒトは新品のように蘇った指輪を眺めながら、考え込んでいた。 「刻印を削る…そんなことをする理由は、普通なら考えられない」 長年の愛の証として身に着ける結婚指輪。それをわざわざ傷つける理由とは、何なのか。...

ジュエリー作家　伊織理人の工房　第一話（２） 老婦人が帰った後、リヒトは作業台に指輪を置き、改めて表面を磨き始めた。 長年の使用でついた無数の傷を、慎重に消していく。 すると―― 「……ん？」 リヒトは指輪を持ち上げ、作業用ライトにかざした。...

ジュエリー作家　伊織理人の工房 第一話①：時を刻んだ指輪 M市の静かな路地裏に、ひっそりと佇む小さなジュエリー工房「J&M」。 店のドアを開けると、ほんのり金属の香りが漂い、ショーケースには繊細な輝きを放つジュエリーが並んでいる。...