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J&M Jewelry&Marriage ジュリ&マリ

ジュエリー作家 伊織理人の工房 陽光のデザイナーと影の職人①

更新日:4月14日





💍陽光のデザイナーと影の職人①


▶︎ファッション誌の最新号を開けば、必ずと言っていいほど彼女の名前がクレジットされている。


「リナ・金崎」


彗星の如く現れた、今最も注目される若手ジュエリーデザイナーだ。


大胆な色使いと革新的なフォルムで、流行に敏感なセレブリティたちを虜にし、大手ブランドとのコラボレーションも次々と成功させている。



「私のデザインが、時代を作るのよ」


煌びやかなレセプションパーティーの会場で、リナはシャンパングラスを片手に、自信に満ちた笑みを浮かべていた。


プラチナブロンドの髪をかきあげ、周囲の羨望の視線を浴びるのが快感だった。


彼女にとって、ジュエリーとは自己表現であり、世界を征服するための武器。


才能と野心、そして圧倒的な努力で、彼女はその地位を築き上げてきた。


古い慣習や地味な職人技なんて、時代遅れだと信じて疑わなかった。



そんな彼女が、あるギャラリーの片隅で、名も知らぬ職人のリングに足を止めるとは、誰が予想しただろうか。


それは、伊織理人が手掛けた、シンプルなプラチナのリングだった。


派手さはない。


だが、吸い込まれるような造形の美しさと、金属が持つ本来の輝きを最大限に引き出したかのような、完璧なまでの仕上げ。


それは、リナが追い求める「新しさ」とは対極にある、静かで、深く、揺るぎない「本質」のようなものを感じさせた。



「…誰よ、これ作ったの…伊織、理人…?」


リナはプライドを刺激された。こんな無名の職人が、これほどの技術を持っているなんて。


しかも、そのデザインには、彼女が忘れかけていた何か…純粋な「祈り」のようなものが込められている気がした。


(許せない…! 私以外の誰かが、こんな…!)


確かめずにはいられなかった。



数日後、リナは高級車の後部座席から、M市の古びた路地裏を忌々しげに眺めていた。


ナビが示した場所は、およそ一流デザイナーが足を踏み入れるとは思えないような場所だった。


「ここで間違いないの?」


運転手に確認し、ため息と共に車を降りる。


場違いなピンヒールの音を響かせながら、目的の工房「J&M」の前に立った。


蔦の絡まるドア。控えめすぎる看板。


(…冗談でしょ? ここが…あんなリングを作った人間の工房?)


リナは眉をひそめ、勢いよくドアを開けた。



カラン、と気の抜けたベルが鳴る。


薄暗く、金属とオイルの匂いが立ち込める、時代に取り残されたような空間。


ショーケースには数点のジュエリーが並ぶだけ。奥の作業スペースから、金属を打つ単調な音が聞こえてくる。


「ごめんください!」


リナはわざと大きな声を張り上げた。高級ブランドの真っ赤なジャケットが、工房のくすんだ色調の中で浮いている。



音の主、伊織理人が作業スペースから顔を出した。


無造作な髪に、シンプルなシャツと革のエプロン。


リナとは対極の、影のような存在感。


彼は怪訝そうな表情で、黙ってリナを見ている。


「あなたが伊織理人? ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」


リナは顎をしゃくり、腕を組んで理人に詰め寄った。


まるで査定でもするかのように、工房の中と理人を交互に見回す。


「先日、ギャラリーであなたのリングを見たわ。…まあ、悪くはなかったけど」


上から目線の言葉とは裏腹に、リナの心はざわついていた。


この男の、静かすぎる瞳の奥に何があるのか。


そして、なぜあんなにも心を揺さぶるものを作れるのか。



理人は、ただ黙ってリナの次の言葉を待っている。


その落ち着き払った態度が、リナの苛立ちをさらに煽った。


「単刀直入に聞くわ。あなた、何者なの? あんな古臭いデザインで、誰に評価されようって言うのよ!」



陽光のように眩しく、攻撃的なリナ。


影のように静かで、全てを受け流すかのような理人。


対照的な二人の出会いは、静かな工房の中で、奇妙な緊張感を生み出していた。



(第二話②へ続く)

 
 
 

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