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ジュリ&マリ ブログ小説「ジュエリー作家 伊織理人の工房」第一話:「時を戻す指輪」(全5回)

更新日:2月5日


ジュエリー作家 伊織理人の工房
ジュエリー作家 伊織理人の工房

第一話①:時を刻んだ指輪


M市の静かな路地裏に、ひっそりと佇む小さなジュエリー工房「J&M」。


店のドアを開けると、ほんのり金属の香りが漂い、ショーケースには繊細な輝きを放つジュエリーが並んでいる。


奥の作業スペースでは、一人の職人が黙々と手を動かしていた。


伊織理人(いおり りひと)、35歳。


彼は爽やかな印象とは少し違って、寡黙な男。


人付き合いが苦手な彼にはジュエリー作家は天職だと感じていた。


なぜならジュエリー作家という仕事は、殆ど1日中、1人で作業するから。


けれど、彼にはただの職人ではない特別な能力があった。


それは


―― 触れたジュエリーに宿る記憶を感じ取ることができる 


というもの。


彼の指先がジュエリーに触れると、それを持っていた人々の想い、歴史、喜びや悲しみが、淡い残像のように流れ込んでくる。


時には嬉しく、時には切ない。それでもリヒトは、その記憶をそっと受け止め、ジュエリーを新たな姿へと磨き上げてきた。


その日、工房のドアが静かに開いた。入ってきたのは、品のある老婦人。手に小さなジュエリーケースを握りしめている。


「こちらで… 指輪の新品仕上げをお願いできますか?」


彼女の声は穏やかだったが、どこか寂しげな響きがあった。


リヒトは頷き、ケースの中を覗く。


そこにあったのは、年季の入ったゴールドの指輪。


表面は細かな無数の傷で覆われている。


50年という時間、いや思い出がそれを表していると言ったほうがいいだろうか。


そっと指先で触れる。


その瞬間、視界がかすみ、意識が指輪の記憶の中に吸い込まれる――


—— 風の吹く丘で、若い男女が並んで立っている。——


男性は少し照れくさそうに、手のひらの小さな箱を開いた。——


そこには、今と同じゴールドの指輪が輝いていた。——


「君とずっと一緒にいたい」——



リヒトは静かに目を開け、老婦人を見つめた。


「ずいぶん大切にされてきた指輪ですね」


「ええ… 50年前、主人が私に贈ってくれたものです」


彼女の目が、どこか遠くを見つめる。


「今月で、主人が亡くなって5年になります。来月が命日で…」


「…」


リヒトは、ゆっくりと指輪を撫でた。


その金属の冷たさの中に、温かい愛の記憶が染みついている。


「思い出を綺麗に残したいんですね」


「それもあります。でも、それだけじゃないんです」


老婦人は微笑んだが、目元がわずかに潤んでいた。


「この指輪を新品のように戻してもらうことで、もう一度、あの頃の気持ちに戻れたらって」


彼女の言葉に、リヒトは静かに頷いた。


新品仕上げとは、ただ傷を消す作業ではない。


それは時を巻き戻し、持ち主の心をもう一度輝かせる作業でもある。


「お預かりします。少しお時間をいただきますが、大丈夫ですか?」


「ええ、よろしくお願いします」


老婦人は静かに頭を下げ、工房を後にした。


リヒトは、改めて指輪を見つめる。


これはただのジュエリーではない。50年分の想いが込められた、大切な記憶の欠片だ。


「…さて」


彼は工具を手に取り、作業台に向かう。


指輪の表面を磨きながら、ふと気づいた。


「…ん?」


指輪には何かが刻まれている。


ほんのわずかに残る、何かのメッセージ――


そしてそれを消すかの様な不自然な傷


これは偶然なのか、それとも…?


🔜 次回「第一話②:刻まれたメッセージ」理人が指輪を磨く中で見つけた、消えかけた刻印とは――?


次回の更新をお楽しみに!


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