第二話:赤いルビーの約束①&②
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- 2月13日
- 読了時間: 5分
更新日:2月17日

M市にある小さなジュエリー工房 「J&M」。
伊織理人(いおり りひと)は、今日も静かに作業台に向かい、ジュエリーと向き合っていた。
扉につけられた小さなベルが鳴る。
工房の入り口に立っていたのは、少し控えめな雰囲気の女性だった。
「あの…オーダーメイドの指輪をお願いしたいんですが」
年齢は20代半ばくらいだろうか。
シンプルなベージュのニットに、デニムのロングスカート。
流行を追いすぎず、でもどこか柔らかい印象を持つ、素朴な雰囲気の女性だった。
リヒトは手元の作業を一旦止め、優しく微笑んだ。
「こんにちは。どんな指輪をお考えですか?」
「あの…これを使って、指輪を作りたいんです」
彼女はそっと、小さなケースを差し出した。
リヒトが開くと、そこには深い赤色のルビーが輝いていた。
「これは…?」
「祖母の形見なんです。でも、枠の部分がだいぶ破損してしまっていて・・・。
せっかく受け継いだのに、このままだと身につけられなくて」
彼女の声には、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。
ルビーを支える金属の枠は、確かに歪み、爪の数か所が欠けている。
長い年月、持ち主とともに過ごしてきたことが分かる。
「お直しすることもできますが、新しくリングを作り直すのもいいかもしれませんね」
「そうですね…新しい形にして、ずっと大切にしたいんです」
彼女はそう言って、小さく微笑んだ。
「おばあさまも、きっと喜ばれますね」
リヒトはルビーをそっと手のひらにのせた。
その瞬間――
視界がかすみ、意識が指輪の記憶の中に吸い込まれる――
—どこか昔の日本家屋。柔らかい陽射しの中、若い女性が穏やかに微笑んでいる。
—その隣には、見知らぬ男性。彼は優しく彼女の頭を撫で、何かを囁いた。
—彼女は幸せそうに目を細める。その指には、深紅のルビーが光っていた。
(…これは?)
リヒトは思わずルビーを見つめた。
「どうかしました?」
「……いえ」
彼はふと顔を上げると、女性が少し不安そうにしていることに気づいた。
「…実は、最近このルビーを見ていると、不思議な夢を見るんです」
「夢?」
「知らない家の中で、おばあちゃんが誰かに頭を撫でられているんです。すごく幸せそうな顔で笑っていて…。でも、その男性が誰なのかは分からなくて」
「なるほど」
リヒトは興味深そうにルビーを眺めた。
(祖母の記憶?それとも、彼女自身が何かを感じ取っているのか…)
「夢の中でおばあちゃんに聞いてみるんです。でも、どこか照れくさそうに笑うだけなんです」
「…照れくさそう?」
「はい。だから、きっと大切な人だったんじゃないかなって」
彼女は指先でそっとルビーを撫でた。
「だから、このルビーをずっと身につけられるようにしたいんです。おばあちゃんの思い出と一緒に」
リヒトは小さく頷いた。
「素敵ですね。では、あなたにぴったりの指輪を作りましょう」
「お願いします!」
彼女は少し安心したように微笑んだ。
リヒトは改めてルビーを見つめながら、静かにデザインの構想を練り始める。
この指輪が、新たな物語を紡ぐことを願って――。
***
📖 第二話②:指輪に込められた想い
M市にあるジュエリー工房「J&M」。
静かな夜、伊織理人(いおり りひと)は、作業台に向かいながら赤いルビーを見つめていた。
「…綺麗な石だな」
手のひらにのせたルビーは、まるで命を宿しているかのように深く、温かみのある赤をたたえている。
リヒトはルーペを覗き込みながら、ルビーの状態を確認した。
宝石にはそれぞれ個性がある。色の深み、輝き、内包物の入り方――すべてが唯一無二だ。
「この石に込められた想いを、形にしなければ…」
リヒトは静かにスケッチブックを開き、デザインを描き始めた。
彼の手が迷うことはない。
—シンプルなデザインがいいか…いや、少しクラシックな雰囲気を残した方が、このルビーの歴史を活かせる。
—枠は細めのゴールドにして、ルビーが際立つように…
彼は黙々とデザインを描いていった。
すると、ふと手が止まる。
(なぜだろう…このルビーを見ていると、妙に心がざわつく)
リヒトはルビーを指先で転がしながら、もう一度じっくりと観察した。
その時だった――
ふと、工房の中がぼんやりと霞むような感覚に襲われる。
(…またか)
リヒトは宝石に触れたとき、不思議な記憶を感じ取ることがある。
まるで、その石に刻まれた想いが流れ込んでくるかのように。
目を閉じると、静かに情景が浮かんできた。
***
—優しい手が、小さな女の子の頭をそっと撫でている。
—女の子は目を閉じ、幸せそうに微笑んでいる。
—その手には、あのルビーが輝いていた。
「…!?」
リヒトは驚いて目を開けた。
工房は相変わらず静かで、先ほどと何も変わっていない。
だが、先ほどの映像は確かに ルビーの記憶 のように感じられた。
(あの女性の言っていた "祖母の形見" という言葉…あれは、ただの形見じゃない)
このルビーには、 もっと深い想い が込められているのではないか?
リヒトはルビーを見つめながら、考えを巡らせる。
「……この指輪は、誰のものだったんだ?」
今の夢に出てきたのは、依頼人の祖母だろうか。
だとしたら、あの優しく撫でる手の主は誰だったのか――?
「あの女の子の親・・・なのか?」
リヒトはスケッチを描き直しながら、小さく呟いた。
指輪に込められた想いは、時間を超えて受け継がれていく。
このルビーもまた、新しい形となって、次の世代へと紡がれていくのだろう――。
***
🔜 次回「第二話③:ルビーに込められた約束」
ルビーの持ち主にまつわる、新たな記憶が明らかに――。
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