top of page

RESERVATION

プロフィール

登録日: 2024年9月23日

記事 (244)

2026年1月9日3
【小説】ジュエリー作家 伊織理人の工房5
第五話:最後の一片(ラストピース) 作業台の上で、自作した「時のコイン」とオレゴンサンストーンが、ランプの光を受けて妖しく瞬いている。理人は、完成まであと一歩のところで、その手を止めていた。 「どうしたの理人? あとは石を留めるだけじゃない」 リナが身を乗り出して尋ねる。彼女の瞳には、かつてないほど鋭いクリエイティブの熱が宿っている。 「……リナ、このジュエリーは『美しすぎる』んだ」 「はぁ!? 何言ってるのよ。アワードに行くのよ? 美しくて当然じゃない」 理人は首を振った。 「九条が用意してくるのは、計算し尽くされた完璧な美だ。でも、俺たちが作ろうとしているのは『人生』そのもののはずだろ。人生には、予期せぬ歪みや、手触りのある温もりが必要なんだ」 理人は、壁に掛けていた私物のコレクションから、一枚のコインリングを手に取った。 それは彼がかつて旅先で手に入れ、ボロボロになるまで磨いては、また傷ついた、思い出の深いコインだった。 理人はそのコインの一部を薄く削り出し、オレゴンサンストーンの台座の「隠しパーツ」として組み込んだ。...

7
0
2026年1月8日3
【小説】ジュエリー作家 伊織理人の工房4
第四話:錬成される「時の地金」 M市の夜は更け、工房『J&M』には、これまでとは違う、重厚な金属を熱する匂いが立ち込めていた。 「理人、本当にそれで行くの? アワードよ? 相手は数千万クラスのダイヤモンドを惜しみなく使ってくる九条なのよ」 リナがスケッチブックを抱えたまま、不安げに理人の手元を覗き込む。 理人が作業台に置いていたのは、ありふれたプラチナやK18の地金ではなかった。 それは、彼が何年もかけて少しずつ集めてきた、 「アンティーク・ゴールド」の端材 と、街の人々から預かった「思い出の詰まった古い貴金属」を精錬し直した、理人独自の合金だった。 「リナ、九条が提示するのは『現在(いま)』の価値だ。でも、俺が作りたいのは『積み重なった時間』そのものなんだ」 理人は、精錬した地金を一度真っ白なキャンバスのような「無垢のコイン」へと鋳造した。そしてその表面に、リナと共に考案した「現代の紋章」を刻んでいく。 わざわざコインを一から作る。 それは、コインリングが持つ「歴史を纏う」という哲学を、理人がジュエリー職人として再定義するための挑戦だった。 「石はどうするの?...

3
0
2026年1月7日3
【小説】ジュエリー作家 伊織理人の工房3
第三話:逆襲の試作品(プロトタイプ) 青白い炎が、工房の静寂をなめるように揺れている。 理人は、リナから預かり直した6ペンスのリングに、再び火を当てていた。 九条大介が残していった澱のような悪意を、高熱で焼き払い、記憶をリセットするための作業だ。 リナは、作業台の少し離れた場所で、スケッチブックを膝に乗せたまま動けずにいた。 先ほど理人が見せた、あの静かで、けれど絶対に妥協を許さない瞳。 「純粋な祈りだけを届けるべきだからな」 その言葉が、耳の奥で何度もリフレインしている。 (……あんなの、ずるいわよ) リナは、自分の頬がまだ少し熱い自覚があった。 都会で数多の称賛を浴びてきた彼女にとって、理人のような「飾らない、けれど核心を突く言葉」は、どんな高価な宣伝文句よりも心に深く刺さる。 彼女は、照れ隠しをするようにスケッチブックを乱暴に開き、鉛筆を走らせた。 「理人、アワードまで時間がないわ。九条の『完璧な美』を黙らせるには、ただのコインリングじゃ足りない。私のデザインと、あんたの技術……その二つが完全に融合した、見たこともないような『化け物』を作らなきゃ」...

3
0
bottom of page