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ジュリ&マリ ブログ小説「ジュエリー作家 伊織理人の工房」第一話(4):「時を戻す指輪」(全5回)


ジュエリー作家 伊織理人の工房 第一話(4)
ジュエリー作家 伊織理人の工房 第一話(4)

指輪を受け取った老婦人は、そっと目を細めた。新品のように輝くリングを指にはめ、それを上にかざしながらゴールドのキラキラした輝きがとても愛おしいのだろう。


「懐かしいわね…この輝き」


遠い目をしながら、老婦人は再び小さく笑った。


「ねぇ、職人さん。これが削られる前の指輪の刻印……あなたは、どう思う?」


理人は、あらためて刻印の消された部分を指でなぞった。


「I Will make you happy」——僕が君を幸せにする。


それを削ったのは、間違いなく 彼女の夫だった


「あら、良く読めたわね」


彼女はびっくりした顔でリヒトを見た。


リヒトは優しく微笑むと


「仕事ですから」と言った。


でも、なぜ?


リヒトの中にはこのメッセージを消す彼女の夫の姿が目に浮かぶ。


「この老婦人との誓いを後悔したのか、それとも……?」


老婦人は静かに指輪を撫でながら、口を開いた。


「…夫はね、とても優しい人だったわ。いつも私を気遣ってくれて」


「でも、最期のころは少し様子が変だったの」


「変?」


「ええ。何かを気にしていたような… それを聞こうとすると、いつも笑って誤魔化すのよ」



何かを悔やんでいたのか?あるいは、言えないことがあったのか?


リヒトは静かに考え込む。


「最後にもう一度、仕上がり確認させてください」


キラキラと光るゴールドの指輪。


老婦人の指輪のサイズ感を確かめた。


すると、またあの感覚が流れ込んでくる——


「…間違っていた…」

 

そう言いながら指輪を削っている1人の老人の姿。


彼の目には涙が浮かび、時折それを拭いながら余り言うことの聞かない手で指輪を削っている・・・


そんな言葉とは裏腹に、彼女への深い愛情をリヒトは感じ取っていた。


——彼は何故後悔していたのか?


それ以上の事はわからない。


リヒトは小さく首を振ると


彼女の目を真っ直ぐ見た。


「……おそらく、ご主人は奥様を深く愛していたんだと思います」


理人はそう呟いた。


「えっ?」彼女は小さく驚いた。


「ふふ。ありがとう」


彼女は少女の様に恥じらった。


「職人さん、お幾らかしら」

彼女は上品なハンドバッグから財布を取り出した。


出口に向かった彼女は立ち止まり、リヒトの方に振り返ると


「職人さん、ありがとう。この指輪とともに、もう少しだけ、彼と一緒に歩んでいくわ」


リヒトは微笑み、深く頷いた。


「こちらこそ、ご満足いただけて光栄です」


穏やかな表情でそう言う彼女の姿を見て、理人はふっと息をついた。


宝石は、人の思い出を映す鏡


そして、その輝きには、それぞれの物語が宿る。


老婦人が工房を後にした後、理人は静かに時計を見上げた。


「……もうこんな時間か」


そう言いながら奥の工房にある作業椅子に腰掛けた。


目の前には50年の記憶の欠片がまだ散らばっている。


次回「第一話⑤:指輪のメッセージ」


指輪に秘められた "もう一つのメッセージ" に気づいた理人。


それは、渡した指輪の記憶の「映像」だけではなかった——


次回、いよいよ 第一話完結編!


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