📖 第三話:「消えたエメラルド」④:「彼女の最後の願い」
- v0vo0oe0e
- 3月3日
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第三話④:「彼女の最後の願い」
オルゴールの内蓋の中に、大切に包まれていたエメラルド。
彼はそっと、それを手のひらに乗せた。
小さな緑の宝石。
光にかざすと、淡く輝きながら、彼の指先で静かに転がった。
「どうして……?」
なぜ、妻はこれをここに隠したのか。
なぜ、何も言わずに――
答えを探すように、彼はエメラルドをじっと見つめた。
すると、ふいに記憶の奥から映像が蘇る。
◆ 口論の夜
2年前。
彼は仕事に追われ、妻との会話も減っていた。
疲れた顔で帰宅すると、食卓には手をつけられていない料理。
妻は静かに、彼を見つめていた。
「遅かったね。」
「……仕事だから。」
「今日のこと、忘れてた?」
「……え?」
妻が寂しげに笑う。
「結婚記念日だったんだけど。」
「あ……」
思わず言葉に詰まる。
「もういいよ。わかってる。仕事が忙しいのも、あなたが一生懸命なのも。」
「じゃあ、何を怒って――」
「怒ってなんかない。ただ……もう私のこと、見てくれてないんじゃないかって思っただけ。」
彼女の目が、揺れる。
「……ねえ、本当に私のこと、好き?」
「そんなの、決まって――」
「なら、今ここで言って。」
「……」
言葉に詰まった。
「やっぱり、そうなんだ。」
妻はゆっくりと指輪を外した。
その内側に輝いていたエメラルドを、指先でなぞる。
そして、ふっと笑った。
「この石はね、あなたが選んでくれたものだから、大切にしてた。」
「……だったら、どうして?」
「もう少しだけ、確かめたくなったの。」
そう言って、彼女はそっとエメラルドをポケットにしまった。
その夜から、彼女は指輪をしなくなった。
◆ 彼女の真意
彼は震える手で、オルゴールのハンカチを握りしめた。
「確かめたかった……?」
エメラルドを隠したのは、彼の愛情を試すためだったのか?
「いや……違う。」
試したかったんじゃない。
彼女はただ、確かめたかっただけなんだ。
自分が、彼にとって今でも特別な存在なのか。
言葉ではなく、行動で。
もし、彼がエメラルドが消えたことに気づかなかったら――。
もし、彼がそれを探そうともしなかったら――。
「……」
彼は、何も気づかなかった。
彼女の気持ちも、指輪の変化も。
2年間、仏壇の前に座りながら、ただ心の中で謝るばかりだった。
そして、彼女がいなくなってからようやく気づいた。
「バカだな、俺は。」
手のひらに乗せたエメラルドが、涙でにじむ。
彼女がいなくなって、2年。
今ようやく、彼女の最後の願いにたどり着いた。
🔜 次回:「再び、指輪に宿るもの」
エメラルドを指輪に戻し、彼が最後に選んだ”答え”とは?
そして、彼の前に現れる”ある光景”とは――。
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