📖 第二話④：想いを繋ぐ指輪

M市の小さなジュエリー工房「J＆M」。

伊織理人（いおり りひと）は、指先に残るルビーの温もりを感じながら、静かに作業台に向かっていた。

「この石に込められた"約束"を、今の彼女に相応しい形にする。」

それが、リヒトに託された仕事だった。

依頼人の女性が持ち込んだルビーの指輪は、代々受け継がれた想いの象徴だった。

その石に、新しい輝きを与え、未来へと繋げていく。

リヒトは慎重にルビーを外し、新しいリングの制作に取り掛かる。

＊＊＊

—静かな工房に、金槌の音が響く。

—リングの地金を伸ばし、慎重に形を整えていく。

—ルビーが再び輝けるように、最適なセッティングを選ぶ。

「…おばあちゃんの指輪だから、クラシックなデザインにしてほしい」

依頼人のその言葉を思い出しながら、リヒトはシンプルで気品のあるデザインを選んだ。

細身のゴールドリングに、小さな爪でルビーを支えるスタイル。

どこかノスタルジックで、それでいて洗練されたフォルムが浮かび上がる。

「…いいな」

リヒトは軽く頷き、最後の仕上げに入る。

ルビーを慎重にセットし、爪を微調整する。

最後に全体を磨き上げ、指輪に生命を吹き込んだ。

静かに光を放つルビー。

それは、時を超えて繋がれた愛の証だった。

＊＊＊

翌日。

依頼人の女性が、工房を訪れた。

「お待たせしました」

リヒトは、完成した指輪を小さなケースに収め、女性の前にそっと差し出す。

彼女は少し緊張した面持ちでケースを開けた。

「……わぁ」

そこには、ルビーが美しく輝く新しい指輪があった。

「おばあちゃんの指輪が…こんなに綺麗に」

彼女は指先でそっとルビーを撫でながら、感慨深げに微笑んだ。

「形は変わっても、ルビーはそのままです」

「うん。おばあちゃん、きっと喜んでくれる」

そう言った彼女の目には、涙が滲んでいた。

「この指輪を、ずっと大切にします」

リヒトは小さく頷き、静かに微笑んだ。

「またいつか、新しい想いを込める時がきたら、いつでも相談してください」

「はい」

彼女は丁寧にお辞儀をし、大切そうに指輪を持ち帰った。

その背中を見送りながら、リヒトはふっと息をついた。

ジュエリーに込められた想いは、時代を超えて繋がれていく。

そして、その想いを形にするのが、彼の仕事なのだ。

工房には、穏やかな静けさが戻った。

リヒトは少しだけ伸びをして、新しい依頼の準備に取り掛かった。

🔜 次回　第二話⑤：夢に見た家族の記憶

新しくなったリング。後日談が・・・

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